見積書公開!イチゴの高設栽培の初期費用は?

イチゴ

 

 

これから新規就農してイチゴ栽培を始めようと思っている人、規模拡大を考えている人におすすめの記事です。

ここ数年、円安、肥料の供給不安定、原油価格の高騰、農業経営の環境はますます厳しくなっていると感じます。

施設栽培においては初期費用、特にハウスの建設費が大きく、新規に参入しようとする際の障壁のひとつでしょう。

鋼材やビニールなどの価格は筆者が経営を始めた2014年の頃と比較にならないほど上昇しています。

今回の記事は、以下の内容になっています。

  • 信頼できる業者さんから、実際に出してもらった見積書を公開
  • イチゴ高設栽培に必要な施設や機器類の選ぶ際のポイントを解説

 

 

 

施設費用なんと約1.4倍に 2014年→2022年の約8年で

2014年当時、イチゴ高設施設を建てると2反で3,900万円でした。

それが2022年現在、なんと5,500万円という金額に。8年で施設費用が約1.4倍になりました。

以前から、中国の鋼材需要の拡大でハウス部材が高騰し始めている、という話は耳にしていました。しかし、さらにもう一段階か二段階の値上げが続いていると感じます。
今回、それがはっきりと証明されたと言えます。

とはいえ、イチゴの国内需要は依然として高く、時期によっては品薄になるほど引き合いは強いです。

それでは今後、施設を新しく建設する場合はどのような仕様のハウス、機器類を検討していくべきなのでしょうか?

価格とのトレードオフにはなりますが、どのような点に注意すればよいのか、イチゴの生育という観点も交えながら必要な仕様を説明していきます。

ハウスの仕様

耐風性、耐雪性によってハウスの価格が変わります。単純に頑丈なら骨材が太くたくさん使われているからです。

就農地域の気候に合わせて選びます。すでに産地が形成されている地域では、既存の施設の仕様を確認するのもよいかと思います。

また、イチゴの高設栽培の特徴である栽培ベンチも、県などの研究機関やメーカーが独自に開発していて選ぶのに迷うくらいの数があります。

基礎あり軽量鉄骨ハウス

角柱がコンクリート基礎に接続
コンクリート基礎

コンクリートで基礎を作り、その上に鉄骨で柱を立てたハウスです。

柱1本ずつが太く頑丈なため、耐風、耐雪性能が高いうえに作物に影がかかりにくいです。

採光性が高いということはそれだけ光合成がしやすい環境と言えます。

「光1%ルール」と言われることもあるように、光強度の積算値と生産量は連動するととらえて、いかに採光性の高いハウスにするかもハウス選びの重要なポイントです。

基礎なしパイプハウス

基礎なしパイプハウスの柱部分 アーチパイプが地面に突きささっている

アーチ状の金属パイプを何本も地面に突きさしていき、それらを連結したタイプのハウスです。ごく一般的なビニールハウスがこれになります。

このハウスを1棟ずつ離して設置したものを「単棟」、横並びにつなげて一つの大きなハウスにしたものを「連棟」と呼びます。筆者の施設はこのパイプハウスの連棟を採用しています。

メリットは、上記の基礎あり軽量鉄骨ハウスに比べて価格が少し安く抑えられることです。また、撤去する際も地面に挿したパイプを引き抜いていくだけなので工事が比較的かんたんにすみます。

デメリットは、ハウス強度をパイプの本数でカバーしているので採光性が基礎あり軽量鉄骨ハウスより落ちること、地面に挿さっている部分は防錆処理がしてあるものの、条件によってはさびが発生することがあることが挙げられます。

また、基礎あり、基礎なしにかかわらず、被覆資材であるビニールの張り替えが数年~十数年で必要となることも頭に入れておくとよいです。初期費用だけでなく定期的にかかってくる費用もかんがえなければならないということです。

換気のためにビニールをくるくると巻き上げる部分がこすれて劣化しやすいため場所によって補修や交換のタイミングが異なるので状況を常に把握することも大切です。

高設ベンチ(収穫株用)

ハウスの仕様と比較して、高設ベンチは選択肢が多く価格の幅が広いので、新規で始める人が悩みやすい設備の一つでしょう。

選ぶポイントとしては、

  • 価格
  • 培地の加温と保温
  • 栽培槽の排水性

の3つを初めに考えておくとよいでしょう。

価格
メーカーのベンチは栽培システムとして1つのパッケージ商品として販売されているため、知識がなくても導入すればすぐにイチゴ栽培ができます。

その代わりに、すべてセットでの導入のため価格の調整がしにくいという欠点があります。

また、県の試験場など公的機関で開発されたベンチは、地元の施工業者と相談しながら作ることが多いので、自分のスタイルに合わせたちょっとしたカスタマイズがやりやすいです。予算に合わせた設計がしやすいという長所があります。

しかしながら、自治体や地元JAなどの研修を利用した場合には、その土地の推奨する栽培方法があり、高設ベンチの様式が決まっているケースもありますので研修前にどのような栽培方式か知っておくとよいと思います。

その他にも、培地や資材の定期交換など思ったよりランニングコストがかかってくる場合があるので事前の打ち合わせの際に確認するとよいでしょう。

培地の加温と保温
高設ベンチは地面から1メートルほど離れているために施設内気温の低下とともに培地温度が低下します。

厳寒期ともなると加温設備がなければ、ほぼ気温と同じくらいまで培地温度が低下します。

イチゴの特性として約5~6℃以下(品種にもよる)の低温に長時間さらされると、露地栽培した場合と同様に「休眠打破」をするので春先に花芽がつかず、ランナーばかりになってしまうことがあるので注意しなければなりません。

培地温度は、根の最適温度である17℃前後を保つことが望ましいとされています。厳寒期の夜間に外気温が0℃を下回ったときでも、培地温度は低くても8~10℃以上は保ちたいところです。

それより低い温度で管理した場合には、草勢の低下を引き起こして葉の展開が遅くなってしまいます。そうなってしまったら、収量が低下してしまう恐れがあるので培地温度は慎重に管理します。

加温の方式は、イチゴの株に接するように電熱線を通し直接温めるもの、培地の中に樹脂チューブを埋設してその中にお湯を循環させて温めるものとがあります。

電熱線のタイプは、その名の通り電気を使いイチゴの株元(クラウン)のみを温めるので熱効率がよく光熱費の削減になります。

チューブの中にお湯を通すもの(温湯ボイラータイプ)は、重油を使ったボイラーでお湯をわかし、温度が下がったら自動でチューブにお湯を循環させて温度を上げる仕組みをとっています。そのため、釜の中にお湯を常に待機させておく必要があり、釜の湯温が下がれば繰り返し沸かし続けるので熱効率が悪く、比較的光熱費がかかります。

筆者の施設では、温湯ボイラータイプを採用しているので電熱線タイプの使用感はわかりません。

ですが、違いとしては言えることは、根全体を温められる温湯ボイラータイプの方が栽培ベンチから一定量の放熱があることで、施設内気温を上げることができ、結果として暖房機の使用量が減らせるというメリットがあるということでしょう。実際に、培地加温が始まった時間に施設内気温が上昇するのを確認しています。

また、培地温度は栽培槽の材質によっても影響を受けます。例えば、保温性の高い発泡スチロール製の栽培槽は、温度変化が緩やかなので早朝のもっとも気温が下がる時間でも十分な温度を保っていることがあります。

それに対して、保温性のない不織布製の栽培槽の場合は気温とほとんど同じ培地温度になるので特に加温する必要性が高いです。

また、培地量が少なければ少ないほど気温の影響を受けやすくなるのでその点も考慮することをおすすめします。

つまり栽培槽の保温性が高いがどうか外気温が氷点下になる地域かどうかでベンチ加温設備の導入の目安にするとよいです。

栽培槽の排水性
これは、イチゴの根が必要とする酸素量が高いことに関連します。保水性がよすぎる「水切れ」が悪い培土を使えば根腐れを起こす場合があります。

また、培地の量や潅水回数によっても根腐れの原因となることがありますが、いずれの場合も栽培槽がどのような形状や材質なのかに大きく影響を受けます。

一般的に排水性が高い栽培槽は、不織布を使用して余剰液が直ちに排出される様式のものです。

逆に、栽培槽が全面囲われていて排水のための穴が一部についているだけのものは、条件が重なると培地の酸素量が減ることが考えられるでしょう。

上記の栽培槽の保温性と合わせて考慮することが重要となります。

もうひとつ重要なのが、定植後の地温をいかに下げるかということです。頂花房が花芽分化する時期は、まだ花芽分化の条件の温度を下回ることが少ないです。そのため、培地温度が下がる夜間に十分放熱できる栽培槽であることが理想です。

送風機を使って積極的に温度を下げる技術もありますが、やはり栽培槽の構造がある程度の放熱性を持っていることが花芽分化にとって重要となります。

排水性のある不織布を使った栽培槽

育苗ハウス

親株を植えて子苗をとり、収穫株となるまで養生するためのハウスが必要となります。

一般的に育苗は夏に行うということもあり、高温多湿な環境になります。そのため、風通しがよく湿度がこもらないハウスを設計してもらうのが必須となるでしょう。

雨除けハウス

高温多湿になりにくく、なおかつ落下してくる砂ぼこりや病原菌などを最低限防ぐために考え出されたのが「雨除けハウス」です。天井のビニールだけ張られていて、サイド面にはネットだけ、もしくはなにも張られていないハウスです。

非常に風通しがよく熱や湿度がこもりにくいのが特徴で、病害虫の予防や作業性の高さがメリットとして挙げられます。

デメリットとしては、ハウスの強度が全面ビニール展張のハウスと比べて圧倒的に低いことです。急な突風による被害を受けたり、台風接近時には風の影響をうけないようにビニール巻き込んでおく手間があります。

とは言え、雨除けハウスによるメリットの方が断然大きいため、筆者の施設周辺では、育苗ハウスではもっとも多く採用されています。

イチゴ栽培の中でもっとも恐ろしい病気の一つが「炭疽病」です。発生するのは、高温多湿の育苗期間に集中します。炭疽病に感染したら、周辺の苗も感染拡大防止のために処分しなければなりません。そうなれば、苗数が足りなくなり、収入減少は避けられません。炭疽病を防ぐもっとも有効な手段がこの雨除けハウスです。新規で始めるときは必ず検討すべき施設といえます。

次に解説する高設ベンチ(育苗用)と合わせて導入することでさらに病気の予防につながります。

高設ベンチ(育苗用)

収穫株用の高設ベンチと別に、1ヶ所でたくさんの子苗を育てる育苗用のベンチが必要となります。定植するまでの間、これらの子苗は花も実も付けずただひたすら養生します。ベンチというより苗を並べておく台という感じです。

また、育苗期間はあまり大きく生長させることなく、せまい面積にたくさんの苗が置かれることが多いです。そのため、密集した環境で病害虫予防をいかにうまく行うかが重要となります。

育苗用の高設ベンチを導入する際にまず考えなければならないのが、給水方法です。

以前は、上部潅水といって苗の上から水を与える方法が主流でした。しかし、炭疽病の被害が問題となってからは、水はねによって感染が拡大しないように新しい給水方法が広がりました。

それが、底面給水方式です。台の上に広げたシートに給水してその上に置いた苗が水を吸い上げるというものです。これにより炭疽病に感染したとしても被害が広がりにくく、最小限に抑えることができます。ただ、底面給水方式では水ムラが発生しやすく、すべての苗に均等に水が行き渡らないこともしばしばあり、定期的な見回りが必要になるというデメリットがあります。

そこで最近では水ムラを軽減できる、連結ポットを使った新たな方式が増えてきています。底面給水のようにポリポットを使わずに、硬質プラスチック製の連結されたポットに土を入れてそこで苗を育てます。その穴一つひとつに水が流れ込むように溝がついていて、チューブから出た水がその溝を通って苗の植わっている穴に行き渡るという仕組みです。現在主流なのは、「ジグポット」や韓国製の「カタツツムリポット」と呼ばれるものです。

潅水の方法が違えば、ベンチの形状も異なってきます。それぞれの給水方式に合うように育苗用の高設ベンチを設計するのがよいでしょう。

機器類

ハウス施設以外にもさまざまな制御機器が必要です。主なものを紹介していきます。

暖房機

厳寒期には、ハウス内であっても何もしなければ屋外と同じくらいまで気温が低下します。そんな時にハウス内の気温を上げるために稼働させます。

灯油炊きのタイプもありますが、重油を使って加温するものが主流となっています。

別の使い方として、ハウス内の相対湿度を下げる目的で夜間や雨の日に使うこともあります。

炭酸ガス発生装置

二酸化炭素を積極的に供給して植物の光合成を促そうというための装置です。

密閉されたハウス内で大気中よりも高い濃度でイチゴを育てると生育がよくなり、収量が格段に上がります。

灯油炊き液化炭酸ガスのものが販売されています。最近では、暖房機の排気ガスから二酸化炭素のみを回収、蓄積して必要に応じて施用する、環境に配慮した装置も出てきています。

灯油炊きタイプの炭酸ガス発生装置

循環扇

密閉されたハウスの中は、換気されないかぎりは空気の循環がほとんどありません。そんなときに、この循環扇を使って、温度や湿度、二酸化炭素のムラを解消します。

要するに大型の扇風機で、天井から吊るされているものが多いので作業の邪魔になりにくいです。

高設ベンチ加温ボイラー

高設ベンチは、栽培槽が地面から離れているので地熱が伝わらず温度低下してしまいます。そのため、温暖な地域以外では加温のためのボイラーが利用されています。

重油炊きのボイラーと電熱線タイプの加温装置があります。

環境制御機器

暖房機や炭酸ガス発生装置、施設の換気装置、ほぼすべての機器類を決められたプログラムでコントロールするための機器です。

外部通信機能を持つ製品も増えてきていて、施設にいなくてもインターネット環境さえあればいつでもどこでもハウス内の環境をコントロールできてしまいます。

装置本体の値段も高額なものが多いですが、通信費などを含む月額利用料が別途かかることが多いので確認しておくとよいです。

まとめ

以上のように、価格面だけでなくイチゴの生理・生態に合わせて施設や機器類を自身の経営に合わせて選んでいくことが成功への第一歩です。

今後も農業を取り巻く環境は、今以上に厳しくなる可能性もあります。そんな状況でも安定した経営をするためには、総合的な判断力がこれまで以上に求められていると言えます。

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イチゴ新規就農栽培技術
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