肥料計算を自分でやりたい!と考えている人に必要な内容をまとめました。
単肥をもとに自分で計算して施肥設計ができれば、作物の能力を最大限引き出せる可能性があります。
そして何よりも肥料代を削減することができます。
今のままずっと同じ肥料をやり続けるのか、自分でバランス調整して栽培レベルをステップアップさせるのか、あなたはどちらをえらびますか?
ムダのない肥料設計でコスト削減!
ムダのない施肥設計は、それだけでコスト削減につながります。
肥料の全体量を適正範囲にするのはもちろんですが、各要素をできるだけムダのないようにバランスよく配合する必要があります。
例えば、硝酸石灰という肥料がありますが、これを水に溶かすと硝酸イオンNO3–とカルシウムイオンCa2+にわかれます。
また、硝安という肥料は、硝酸イオンNO3–とアンモニウムイオンNH4+という2種類の窒素にわかれます。
他にも、硫酸マグネシウムや第一リン酸カリウム、リン安、リン酸カリウムなどの肥料を組み合わせて施肥を行います。
ぼくは窒素を増やしたいから、硝安を入れよう!
私はマグネシウムを強化したいから硫酸マグネシウムを入れよう!
このようにN、P、K、Ca、Mg、Sなどの単体同士の組み合わせでできている化合物の状態で他のものが混ざっていない肥料のことを単肥と言います。
この単肥を組み合わせて作物に合わせて調整、配合したものを水に溶かして養液を作ります。
作物にあった成分をバランスよく配合
下の表が培養液処方例において代表的な園試処方と山崎処方と呼ばれるものです。
処方例 | 成分濃度(me/ℓ) | 生育段階調整(%) | 対象作物 | |||||
N | P | K | Ca | Mg | 前期 | 後期 | ||
園試処方 | 16.0 | 4.0 | 8.0 | 8.0 | 4.0 | - | - | 各種共通 |
山崎処方 | 7.0 | 2.0 | 4.0 | 3.0 | 2.0 | 100 | 100 | トマト |
10.0 | 3.0 | 7.0 | 3.0 | 2.0 | 100 | 100 | ナス | |
9.0 | 2.5 | 6.0 | 3.0 | 1.5 | 100 | 100 | ピーマン | |
13.0 | 3.0 | 6.0 | 7.0 | 4.0 | 100 | 70 | キュウリ | |
13.0 | 4.0 | 6.0 | 7.0 | 3.0 | 100 | 150 | メロン | |
5.0 | 1.5 | 3.0 | 2.0 | 1.0 | 150 | 150 | イチゴ | |
6.0 | 1.5 | 4.0 | 2.0 | 1.0 | 100 | 100 | レタス |
表の列を横に、順に見ていきます。
処方例は園試処方と山崎処方です。
成分濃度(me/ℓ)はN、P、K、Ca、Mg単体としての濃度です。
生育段階調整(%)は前期と後期にわかれ、作が終わるまでの前半と後半で養液全体でのパーセント濃度を増減させます。
園試処方は各種作物で共通した、いわば万能養液です。
山崎処方はさまざまな作物ごとに設計されていて、より作物の特徴に合わせた処方例です。
最近では、各メーカーで「トマト用肥料」や「イチゴ用肥料」というように専用に配合されたもの(配合肥料)が売られていて知識がなくても簡単に養液が作れるようになっています。
メリットは、肥料の計算がいらず、規定の水量で溶かして植物に与えるだけで済んでしまうことです。
デメリットは、細かい調整ができないことと価格が高いことです。
ここで注意しなくてはならないのが、成分濃度(me/ℓ)は普段使われている濃度とは違うという点です。
保証票は「%」、処方例は「me/ℓ」で表示
成分濃度の説明のまえに肥料袋の裏面についている保証票についてみていきます。
単肥でも配合肥料でも、その袋には保証票という要素(N、P、K、Ca、Mg、Feなどの単体)ごとの含有量が書かれています。
下の写真は実際に筆者が使っている肥料の保証票です。
順に、硫酸マグネシウム、第一リン酸カリウム、配合肥料です。
例えば、硫酸マグネシウムは、保証成分量が「水溶性苦土25%」と書かれています。
水溶性のマグネシウムを酸化物換算で25%含んでいます、ということです。
1袋20kg入りなのでそのうち5kgマグネシウムの酸化物が入っていることになります。
水溶性苦土25%=(酸素込みで)マグネシウム25%含んでいる
酸化物とは、「酸素が結びついたもの」なのでこの5kgのマグネシウムは酸素の重さも含まれているということです。
ここで大切なことは、保証票のマグネシウムは酸素も込みでパーセント表示しているということです。
肥料袋に書かれているマグネシウムは酸素の重さも入っているんですね
酸素を含んだ重さをパーセントで表示しています
保証票は窒素以外の成分は酸素を含んだ重さで書かれているんです!
なるほど・・・そんなルールなんですね
そういうルールと理解しておきましょう!
さらにもう一つ、最も肥料計算をわかりにくくしている点があります。
それは、保証票の成分量%と培養液処方例の成分濃度me/ℓの単位がちがうことです。
保証成分量% ≠ 成分濃度me/ℓ
当量eであらわす濃度の単位「me/ℓ」
me/ℓ(エムイーパーリットル)は、濃度の単位です。1ℓの水に何me溶けているかを表しています。
濃度の単位というと、%(パーセント)が一般的ですが、肥料計算では違います。このme/ℓは、言うならば「効果の濃度」になります。
また、meというのはミリグラムeのことで、eの1000分の1ということです。
ざっくりと言えば、eは重さの単位です。1me=何gなのかがわかれば話が早いのですが、その重さは成分ごとに違います。
カリウムとカルシウムの場合、
K 1me = 39.1mg
Ca 1me = 20.0mg
と決まっています。
つぎに、mgからgに変換します。手順はつぎのように行います。
meのmはミリ、1000分の1なので=の左右に1000を掛けます。
K 1e = 39.1g
Ca 1e = 20.0g
少し見やすくなったと思います。つまり、1eの重さはカリウムとカルシウムとでは倍近く差があるのです。
このeというのは「イー」、「イクイバレント」と読み、「当量」という意味になります。
高校の化学では習わない範囲ということもあり、関連書籍が圧倒的に少なく独学では習得しにくいです。しかし、しっかりと理解して自分で肥料設計ができたら大きな強みとなります。
つづいて当量1eはどうやって決まるのでしょうか?
それは、原子量をイオンの価数でわったものが1eと決まっています。
イオンの価数でわるってどういうことですか?
その説明の前に、原子について説明します。
原子とはどんなものかわかりますか?
物質を構成する最小の粒のことですよね。
+の電気を帯びた陽子と-の電気を帯びた電子でできています。
そうですね!
その原子の量、原子量とは、炭素原子Cを12とした場合に原子を「相対質量」で表したものです。
炭素が基準になっているんですね。
でも、相対質量っていうのがわかりにくいです。
原子量は物質ごとに決まっているのでとりあえず、そういうものとして理解しておけば大丈夫です!
窒素は14.0、リンは30.9、カリウムは39.1、カルシウムは40.0、マグネシウムは24.3という感じですね。覚えなくても大丈夫です!
それでは、イオンとはどんなものかわかりますか?
水に溶けた原子や分子が電子を渡したり、受け取ったりして+や-の電気を帯びたものです。
そうですね!
肥料を水に溶かすと+か-のイオンになります。
肥料の効力はイオンの電気量(価数)に影響を受ける
1eとは原子量をイオンの価数でわったもの、と言いました。これは、イオンの電気量(価数)が肥料の効力と関係していることをあらわしています。養液濃度がEC(電気伝導度)を目安にしていることからもわかります。
上記の単肥のひとつ硫酸マグネシウムは、水に溶けるとマグネシウムイオンMg2+と硫酸イオンSO42-に分かれます。それぞれの右上の「2+」と「2-」の数字「2」がやり取りした電子の数になります。
やりとりする電子の数=価数も物質ごとに決まっています。原子量を価数でわると
元素 | 元素記号 | イオン | 原子量 | 価数 | 原子量÷価数(mg/me) |
窒素 | N | NO3-,NH4- | 14.0 | 1 | 14.0 |
リン | P | PO43- | 30.9 | 3 | 10.3 |
カリウム | K | K+ | 39.1 | 1 | 39.1 |
カルシウム | Ca | Ca2+ | 40.0 | 2 | 20.0 |
マグネシウム | Mg | Mg2+ | 24.3 | 2 | 12.1 |
園試処方の成分濃度(me/ℓ)を実際に計量できるkg/ℓに変換します。
元素 | 園試処方の成分濃度 (me/ℓ) | 原子量÷価数 (mg/me) | 養液1ℓあたり成分量 (kg/ℓ) |
N | 16.0 | 14.0 | 16.0×14.0=224.0mg/ℓ =0.224kg/ℓ |
P | 4.0 | 10.3 | 4.0×10.3=41.2mg/ℓ =0.0412kg/ℓ |
K | 8.0 | 39.1 | 8.0×39.1=321.8mg/ℓ =0.3218kg/ℓ |
Ca | 8.0 | 20.0 | 8.0×20.0=160.0mg/ℓ =0.16kg/ℓ |
Mg | 4.0 | 12.1 | 4.0×12.1=48.4mg/ℓ =0.0484kg/ℓ |
たとえば、園試処方の窒素Nの16me/ℓは0.244kg/ℓになります。つまり、養液1ℓあたり244gのNを入れるということです。
マグネシウムMgの4me/ℓでは0.0484kg/ℓ、養液1ℓあたり48.4g入れます。
上記の硫酸マグネシウムの場合、マグネシウムは23%含まれていました。ただ、この23%は酸素の重さも含んでいるといいました。なので、酸素の重さを考慮しなければなりません。
マグネシウムの酸化物MgOの分子量は、40.3です。マグネシウムの原子量が24.3なので、割合は24.3÷40.3≒60.3%となります。つまり、硫酸マグネシウムに含まれる純粋なマグネシウムの割合は、23%×60.3%≒13.9%ということです。
Mgを4me=48.4g入れるとき硫酸マグネシウムがどれだけ必要かを式にすると、
【必要な硫酸マグネシウムの量】 × 13.9% = 48.4g
となります。変形して、
【必要な硫酸マグネシウムの量】 = 48.4g ÷ 13.9%
≒ 348g
まとめ
- 園試処方や山崎処方などの培養液処方例を参考にする!
- 肥料の保証票の濃度と処方例の濃度は単位がちがう!
- 肥料計算のもとになる単位変換を理解する!
単肥は2つの成分が同時に入るので、実際に組み合わせるときは狙った成分ではないものが増えたりします。ちょうどいいバランスで配合するようにしましょう。