家庭菜園でも人気のあるイチゴ。その苗づくりの良し悪しで収穫量が決まってしまうと言われることもあるイチゴですが、プロのいちご農家はどのように苗を育てているのでしょうか?また、たくさん収穫できる苗を作るにはどうしたらいいのでしょう?今回は、イチゴだけで生計を立てているイチゴ専門農家の筆者がイチゴの苗作りについて解説します。
苗を採る
いちご栽培では、イチゴの収穫量を増やすために採苗をして苗数を増やしていきます。採苗した後は、ポリポットなど個別に隔離された容器などで定植まで育てます。採苗というのは、言ってみれば「苗を受け止める」作業であり、受けた苗を育てる「育苗」と分けて考えるのが一般的です。では、どのように採苗しているかについていちごの生態とともに説明していきます。
一季なり品種のいちごは、栄養成長に傾く春から夏にかけてひも状のランナーと呼ばれる細長い部位が発生します。そしてその先にある生長点から葉や根が作られます。そこがやがて苗となり、自立して成長できるように発根を促して培地に根付かせてあげるのです。
採苗するうえでポイントとなるのが苗が根を張る場所の水分です。ランナーの先にでき始めた子苗は、水分がある場所に到達しなければ根を伸ばせません。そのため、採苗の時にはランナーが着地する場所に湿らせた培地を用意しておきます。培地に根を張るには1週間ほど時間がかかるので、ランナーが風などで動かないように専用のピンで留めておくと確実です。
育苗の種類
育苗は栽培容器の形状や給水方法によっていくつか種類があります。
栽培容器の形状による分類
- ポリポット
- 連結ポット
- ロックウール
- 紙ポット
- ジフィーセブン
給水の方法による分類
- マット底面給水
- プールトレイ底面給水
- 上部シャワー潅水
育苗方式は完ぺきというものはなく、それぞれにメリット・デメリットがあります。特性を理解して自分に合ったやりやすいものを選ぶとよいでしょう。
育苗方式 | メリット | デメリット | おすすめ度 |
ポリポット | 安価。洗浄すれば繰り返し使える。 | 土を入れるのに時間がかかる | ○ |
連結ポット | 培土を詰めるのが楽。繰り返し使える。 | 比較的高価。苗の位置が固定されるのでランナーが届かない場合がある。 | ○ |
ロックウール | 培土が不要。サイズが小さいので場所をとらない。 | 給水方法によっては乾燥しやすい。小さいので置き肥しにくい。 | |
マット底面給水 | 余分な水が残りにくい。シート素材なので軽い。 | 平坦な場所に置かないと水が行き渡りにくい。 | |
プールトレイ底面給水 | トレイに水を貯めるのでたっぷり潅水できる。 | 排水調節がむずかしく過湿になりやすい。 | △ |
上部潅水 | 水が下に抜けるため過湿になりにくい。 | 風の影響で水がかからないことがある。 |
苗を育てる
ここからは、苗を採ったあとの育て方について説明します。
いちごの育て方をとっても簡潔に言うと、
採苗 → 育苗 → 定植 → 収穫
となります。育苗では、9月~10月に定植するまでのあいだ苗を病害虫から守り、花芽ができるよう元気に育てていきます。そのために重要なのが、肥料と水やりの2点です。これらの管理がうまくいけば、苗作りはほぼ8割成功したといってもいいでしょう。逆にどちらかでも欠けると、花芽分化がうまくいかずに収穫量が減ってしまうことになりかねません。
家庭菜園の場合は、苗数が少なければ受けた苗をポットなどで育てなくても、親苗から出たランナーを直接プランターなどへ受けてしまえば管理が楽です。
肥料
粒状肥料を使います。肥効がゆるやかなものを用いるのがおすすめです。
特に「これじゃなきゃだめ」というものはありませんが、定植前に肥料が過剰に効いていると花芽分化にマイナスに働くので適量を9月上旬まで保てばよいです。反対に、あまり早期に肥料が切れると樹勢が弱まってしまい、開花遅れにつながってしまいます。この肥料の加減がつかめてくると安定して開花させることができるようになります。
水やり
水分が多すぎると根張りが著しく劣ります。逆に、少なすぎると肥料分が組織に行き渡らず株が充実しません。筆者は、早朝にたっぷり潅水して夕方は足りない分を補うイメージでやっています。特にいちごの根は酸素要求量が高く、酸欠状態には弱いので常に培地の水分が満たされた状態が続くと根腐れを起こします。晴れていて風のある日や葉の枚数が多い場合は培地が乾きやすいため、天気や苗の状態に合わせて水の管理を変えます。育苗方式に合わせて適切な量の水やりを行います。