いちごの自家増殖 種苗法改正による影響は?

イチゴ

 

 

農産物の知的財産権、それが種苗法の「育成者権」です。種苗の開発者が品種登録をすることにより得られる権利で、その人の許可なく種苗を利用することは、育成者権を侵害する行為になります。

実は、種苗法が改正される前から、登録品種のイチゴの苗を自分の経営・収穫のために増殖する行為には許可が必要で、この部分は改正後も変わっていません。例外として、自家増殖は育成者権者の許諾が不要だったのです。しかし、この部分を取り違えてしまい「すべてのイチゴの苗の増殖が禁止されてしまう」という誤解が一部で広まりました。

キーワードとなる「自家増殖」という言葉について正しい解釈が定着していなかったことが誤解の原因のひとつと言えます。

今回の記事では、種苗法が改正された現在、

  • いちご農家が気をつけなくてはならないことは何?
  • いちごの自家増殖はもうできないの?
  • 登録品種の許諾を得るにはどうしたらいい?

そんな疑問を解決していこうと思います。なお、記事の作成にあたり農林水産省の知的財産課種苗室種苗企画班の担当の方に数回ヒアリングしました。質問への対応は非常にわかりやすく、ほとんどその場で回答してもらえました。

 

 

 

登録品種のいちごの苗を増殖をする場合は許諾が必要

いちご農家が収穫のために親苗からランナーで苗を増やす行為は育成者権者の許諾を得て行わなければなりません。このようないちご農家が通常行っている育苗について育成者権者の許諾が必要なのは、実は法改正の前から変わっていません。

生産部会などに所属してイチゴを出荷している場合は、都道府県などの登録品種の育成者権者と団体で許諾契約を結んでいる場合が多く、生産者個人が直接許諾を得る手続きをすることはないでしょう。なので、許諾を得ていたかどうか意識したこともない人も多いのではないでしょうか。

それに対し、個人の経営でイチゴを販売している場合、苗を購入した種苗会社に、ではなく、品種の直接の開発者に苗を増やしてよいかどうかの確認が必要になります。つまり、登録品種の育成者権者に許諾を得なければ苗を増やすことはできません。苗が増やせないということは、収穫株のすべてを購入しなければならなくなり、経営的に非現実的です。つまり、登録品種のいちごの苗を利用するうえで許諾を得るのは必須と言えるのです。

実際には、種苗の販売会社が代理で苗の引き渡しとセットで許諾の確認をしているケースが見受けられます。もしも許諾契約がないまま増殖行為が行われていると違法となる場合があるので注意が必要です。

ということで、種苗法が改正された今、いちご農家が気を付けなければならないのは、作っているいちごの品種が登録品種であるかということです。

登録品種であるかどうかは、以下の記事にある農水省のデータベースなどで検索できます。

許諾を得ずに増やした苗を販売するのは違法

許諾が必要な登録品種の苗を許可なく増殖する行為自体は、家庭菜園などの趣味の範囲であれば違法でありません。しかし、増殖した苗をフリマサイトなどで販売したり、知人に譲り渡してしまえば違法となってしまいます。たとえ、お金のやり取りがなかったとしても違法となります。もしそうなると刑事罰が科せられる場合があります。個人であれば10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはその両方が、法人であれば3億円以下の罰金が科せられる可能性があります。

  • 第六十七条 育成者権又は専用利用権を侵害した者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。(詐欺の行為の罪)
  • 第七十三条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。

    一 第六十七条又は第七十条第一項 三億円以下の罰金刑(以下略)
e-Gov法令検索~種苗法~

また、それによって育成者権者が受けた損害賠償や信頼回復のための費用などを民事請求される可能性もあります。

誤解を生んでいる「自家増殖」とは

種苗法において自家増殖とは、「収穫物の一部を自己の農業経営において、次期作の種苗として利用する行為」のことを言っていました。

いちごの場合、自家増殖にあたる行為とそうでない行為をまとめた図が下になります。

参考:栃木県HP「栃木県登録(出願)品種の自家増殖の取扱いを決定しました」より一部加工

ここで注意したいのは、上の図のピンクの枠内の行為は自家増殖にはあたらないということです。一般的に、イチゴ栽培でいう「育苗」とは、増殖を目的とする親株を購入してそこから採苗することを指しますが、このようなイチゴの育苗は自家増殖とは言いません

自家増殖というのは、上図の右側赤枠の部分のように収穫株から採苗し、次期作の苗として使用することです。また、収穫株の一部を定植せず、次期作の親株として使用することも自家増殖にあたります。ちなみにいちごの場合、種で増やさずにランナーで株分けして増やすのが一般的なので、自家採種ではなく自家増殖という言葉を使っています。

いちごの自家増殖が禁止となった?

いちごの自家増殖が禁止となった、というと今後一切いちごの育苗ができなくなるという不安や誤解を招きます。

なので、「これまで自由に行うことができた自家増殖が、法改正によって許可が必要になった」が正しい解釈です。

冒頭でも述べましたが、法改正の前から登録品種の親苗を購入して収穫株を増殖する行為は育成者権者の許諾が必要でした。生産者部会のようにまとめて登録品種の許諾をとっている場合、生産者個人が直接手続きをすることなく親株を増殖できます。そのため、多くの生産者が許諾されていることを知ることすらなく、親苗から収穫株を増やしていました。

いちごの場合、病気やウイルスなどの感染により収量低下の恐れがあるとして、一般的に親苗の毎年更新が推奨されています。他にも、長年採苗し続けていると品種の特性が変わってくるともいわれています。

そのため、育成者権者との許諾契約の中には、「少なくとも3年以内に親苗を更新してください」という文言が含まれていることがあります。とはいえ、あくまで育成者権者との契約の内容によるのでこれに当てはまらない場合もあります。

大事なことは、種苗の増殖行為の中に一部例外として自家増殖という育成者権者の許諾が不要だったものが、法改正によってそれについても許諾が必要になった、ということです。

加えていえば、法改正後の現在では、自家増殖という区分けはなくなり、「種苗から得た収穫物を自己の農業経営において更に種苗として利用する行為(自家用の栽培向け増殖)」は登録品種においてすべて育成者権者の許諾が必要ということになります。要するに、登録品種であれば自家増殖を含む自分の経営のための増殖は、法律上はすべて許諾が必要なので、区別する意味がなくなったということです。

いちごの登録品種の許諾の受け方

では、実際にいちごの登録品種の許諾を受ける方法について、農研機構の登録品種を例に説明します。

農研機構育成の登録品種の自家用の栽培向け増殖に係る許諾手続きについて (農業者向け)

という農研機構HPのページにある【出願中・登録品種(カテゴリー2のみ)】に自分が経営に利用している品種が含まれているか確認します。もし、含まれていれば申請して許諾を得なければなりません。

出願中・登録品種(カテゴリー2のみ)農研機構HPより一部抜粋

ページ中ほどに「イチゴ申請フォーム」があるのでクリックして進みます。するとメールアドレスを入力するフォームに自分のアドレスを入れて送信をクリックします。送信されると次のようなメールが届きます。

農研機構許諾仮登録メール

届いたメールから本登録フォームに進み、必要事項を記入して送信すれば手続きは完了です。

まとめ

いちご農家やいちごを生産・販売しようとする人が登録品種を利用するうえで注意しなければならないことについて解説しました。法改正後は、いちごの苗の自家増殖親株の増殖と同様に育成者権者の許諾が必要になったことが今回の記事の要諦です。自家増殖と呼ばれていた行為も自家用の栽培向け増殖として育成者権の効力の範囲となったということです。

気を付けたいのが、個人で種苗会社から登録品種を購入して利用している場合です。その種苗会社が代理で許諾契約をしてくれているのであればよいのですが、万が一販売のみを行っている場合は個人で育成者権者の許諾の要不要を確認しなければなりません。家庭菜園などの趣味の範囲であれば問題ありませんが、経営のために登録品種を利用している農家は法律違反にならないように注意が必要です。

今回は、農研機構が育成者権を持っている場合を例にしましたが、個人や法人などが育成者権を持つものもあります。これを機に農水省のデータベースなどで一度確認することをおすすめします。

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