ネオニコチノイド系農薬 いちご栽培での注意点

イチゴ

 

 

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現在日本で使われている殺虫剤の有効成分は、100種類以上存在する。

その中で幅広い害虫に効果があるもののひとつが、ネオニコチノイド(クロロニコチニル)である。ネオニコチノイドは接触毒効果、食毒効果、浸透性、即効性、残効性すべての作用性において優れた殺虫剤である。また、安全性評価においても残留農薬の人への影響環境への影響についてはもちろんのこと作物の生長や収量・品質への影響についても、国によって審査がなされ安全であると判断されている。

そのネオニコチノイド系農薬が施設園芸、とくにいちご栽培において現状どのように使用されているか、また、施設内で使用する際に注意する点を中心に解説していく。

 

 

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ネオニコチノイドとは

食品安全委員会農薬評価書アセタミプリド より

ネオニコチノイドは、たばこのニコチンに化学構造的に類似した物質でありながら人への毒性が低いため、日本において殺虫剤として使用が認められている。一方、ニコチンは、除虫菊やデリスとならんで天然物の農薬として利用された歴史があるが、哺乳動物に対する毒性の高さから農薬としての使用は禁止されている。また、ニコチンは毒物及び劇物取締法において法定毒物に指定されている。

ニコチン、ネオニコチノイドともに水によく溶けて植物体に浸透しやすい特徴を持っているため、殺虫剤としての効果が長く続く。また、他の殺虫剤と作用の仕方が異なるため、他剤に対して感受性が低下した害虫にも効き目がある。

そんなネオニコチノイドであるが、ミツバチのCCD(蜂群崩壊症候群)や人の脳への影響など原因が科学的に特定されていない現象でありながら、一部においてその犯人とされている。

農薬名有効成分訪花昆虫への影響
モスピランアセタミプリド影響ほとんどない
バリアードチアクロプリド影響ほとんどない
ベストガードニテンピラムやや影響がある
スタークル、アルバリンジノテフラン影響がある
アクタラチアメトキサム影響がある
ダントツクロチアニジン影響がある
アドマイヤーイミダクロプリド影響がある
トランスフォームスルホキサフロルやや影響がある

IRAC殺虫剤作用機構分類によれば、ネオニコチノイドは4Aに分類される。⑧トランスフォームのスルホキサフロルのコードは4Cであり、厳密にいえば別の分類となるが、クロロ基を持たないものもクロロニコチニルに含めることが多いため表に加えた。

食品安全委員会農薬評価書スルホキサフロル より

ところで、筆者の知り合いのいちご農家数名に次のような質問を投げかけてみた。

「ネオニコチノイド系殺虫剤の商品名は知っているか?」
「ネオニコチノイド系殺虫剤を他の殺虫剤と区別して使用しているか?」


結果はどうだったかと言うと、モスピラン顆粒水溶剤以外の名前が出てこなかった。また、ネオニコチノイド系殺虫剤を他の殺虫剤と区別して意図的に使用している人はいなかった。いちごのほかに水稲も作っている人は、スタークルを使っていると話していたのだがスタークルがネオニコチノイド系殺虫剤ということは知らずに使っていたとのことだった。それくらい一部の農家にとっては、自分が使っている農薬がネオニコチノイド系農薬かそうでないかは、あまり関心が無いことだと言える。

ネオニコチノイド系農薬の効果

それでは、ネオニコチノイド系の農薬は、どのようにして効果を発揮するのか。ざっくりと言えば、昆虫の神経伝達を遮断することで吸汁活動や繁殖行動を阻止し、その結果、害虫を駆除している、ということになる。

昆虫の体内では神経伝達物質であるアセチルコリンがシナプス後膜にあるアセチルコリン受容体に結合することにより神経伝達が行われている。このアセチルコリンが作用することで筋肉へ刺激を伝達し、昆虫がさまざまな活動をすることができている。

そのアセチルコリンの代わりに受容体に結びついてしまうのが、イミダクロプリドなどのネオニコチノイド系の物質である。アセチルコリンであれば、やがて分解酵素(アセチルコリンエステラーゼ)によって分解される。しかし、ネオニコチノイドの場合、酵素による影響を受けないためシナプス後膜のアセチルコリン受容体が作用し続けてしまい、神経伝達に異常が起きる。

また、ネオニコチノイド系殺虫剤は、カメムシ、アブラムシ、アザミウマ、コナジラミ、ウリハムシ、ウンカ、ツマグロヨコバイなど幅広い害虫に対して効果があることや水稲や野菜など適用作物が多いことも特徴である。言いかえれば、多くの作物に使える非常に便利な殺虫剤なのだ。

昆虫の神経に作用する農薬

グループ特徴IRACコード
カーバメート系アセチルコリン分解酵素の働きを阻害する1A
ピレスロイド系ナトリウムチャネルを開放し続け脱分極を起こす3A
有機リン系アセチルコリン分解酵素の働きを阻害する1B
フェニルピラゾール系GABAで活性化される塩素イオンチャネルを阻害する2B
スピノシン系ニコチン性アセチルコリン受容体アロステリックモジュレーター5
アベルメクチン系
ミルベマイシン系
グルタミン酸作動性塩素イオンチャネルアロステリックモジュレーター(マクロライド)6
ネライストキシン類縁体系ニコチン性アセチルコリン受容体チャネルブロッカー14

ネオニコチノイド系殺虫剤は神経伝達を阻害することで害虫を駆除するのであるが、他の殺虫剤でもよく似た作用をもつものがある。それが上記の表にある、①カーバメート、②ピレスロイド、③有機リン、④フェニルピラゾール、⑤スピノシン、⑥アベルメクチン・ミルベマイシン、⑦ネライストキシン類縁体である。

これらの農薬は、ネオニコチノイド同様に神経細胞のシナプスのすき間を移動する伝達物質のやり取りを阻害して、正常な神経伝達が行えないようにする。

中でもカーバメート、ピレスロイド、有機リンは、日本の農薬の歴史の中で長く使用されてきたものであり、定番のものが多い。それに対しネオニコチノイドは、1990年代に登場した比較的新しい系統の農薬で、幅広い種類の昆虫に毒として作用するが、人間に対しては急性毒性が低いという画期的な薬剤なのである。

病害虫に打ち勝つために生まれた農薬

日本で初めて農薬が使用されるようになったのは、明治時代と言われている。イネの害虫であるウンカの駆除に鯨油が用いられるようになったのが始まりで、その後は、除虫菊をはじめとするさまざまな農薬の試験や開発が進められるようになる。明治に輸入された硫酸ニコチンは、大正になって果樹の害虫の防除に使われるようになった。

そして、農薬の本格的な使用を推し進めたのは、なんといっても戦後の食料危機である。戦争ですべてを失った日本は、農薬開発の進展は輸入に頼ることになる。その際に国内に入ってきたのが、現在では登録失効している急性毒性の高いパラチオンや残留性の高い有機塩素系のDDT、BHCなどの殺虫剤である。

農薬取締法と毒物及び劇物取締法の制定

そして、粗悪な農薬の流通を防ぐために農薬の検査と登録を制度化する農薬取締法が1948年に、毒性の高い農薬の販売や管理方法を定めた毒物及び劇物取締法が1950年にそれぞれ制定された。カーバーメート、ピレスロイド、有機リンなどの現在でも広く活躍している系統の殺虫剤が登録されたのもこの時期である。

平成に入ると無登録農薬の販売や使用が社会問題となり、2002年に農薬取締法が改正され、無登録農薬の製造と輸入の禁止、農薬の使用基準の設定、罰則の強化などが行われた。さらに、2003年に食品衛生法が改正され、残留農薬等に関するポジティブリスト制度が導入されると食品に対する安全意識がよりいっそう高まるようになる。

新系統ネオニコチノイドの登場

そして、平成になって新系統の殺虫剤として登場したのが、ネオニコチノイドマクロライドである。他にも、生物農薬やフェロモン剤、殺菌剤ではストロビルリンやステロール生合成阻害剤の登録がされたのもこの時期だ。

新しく登録される農薬が現れる一方で、残留性汚染有機物質(POPs)への指定などの安全性の問題から失効するものも出てくる。ダイホルタン、PCP、CNP、PCNB、ケルセン、ベンゾエピン、硫酸ニコチンなどが当てはまる。硫酸ニコチンは植物に対して薬害が少ないものの人間に対する毒性が高く、中毒事故が発生していた。その欠点をクリアし登場したのが、ネオニコチノイドでの登録第一号となるイミダクロプリドである。ネオニコチノイドは、昆虫とってニコチンとよく似た作用特性があるが人間をはじめとする哺乳類へは毒性が低い。

つまりは、食糧を安定供給するために新しい農薬が生まれ、毒性が高いものや粗悪なものが淘汰された結果、ネオニコチノイドをはじめとする安全性が高い農薬だけが残ったのだ。

訪花昆虫や天敵のいるハウスでの使用は極力控える

いちごの品質を高める訪花昆虫と天敵生物

いちご栽培では、ハダニ・アザミウマ・ハスモンヨトウ・アブラムシ・コナジラミなどの多くの害虫が問題となる。その他、炭疽病・うどんこ病・萎黄病・灰色カビ病など病気に対しても注意が必要であるが、それについては本記事では割愛する。大事なのは、経営的な観点から収量の大きな減少にならない程度の害虫であれば、労力・資材コストの両面からみて殺虫剤を使用することはない、ということだ。本当に殺虫剤を使わなければならないのは、害虫が大量発生した場合である。労力・農薬や燃料などのコスト負担をしてでも害虫被害を軽減させれば、収量の減少を最小限に抑えることができるからである。

しかし、使用する際に注意しなければならないのが訪花昆虫天敵生物の存在である。訪花昆虫とは、ミツバチやマルハナバチなど受粉を目的とした昆虫で、また天敵生物とは害虫を駆除する目的で作物に放飼しているカブリダニ類やアブラバチなどのことを指す。殺虫剤をはじめとする農薬を使用するには、使用時期・希釈倍率・使用回数を遵守しなければならないのだが、それとは別に訪花昆虫と天敵を導入している施設であれば、使用を避けるべき薬剤を念頭に置く必要がある。万が一にも、避けるべき殺虫剤を使ったのならば、訪花昆虫や天敵が死んでしまうのだ。

ネオニコチノイドではなくてもミツバチは死ぬ

当然のことであるが、ネオニコチノイド系以外の殺虫剤であっても益虫に対して決して無毒ではない。例えば、ミツバチなど有用な訪花昆虫にスピノサド(スピノシン系)という薬剤がかかれば高い確率で死んでしまうのだが、ヒラズハナアザミウマという難防除害虫に対してスピノサドは非常に有効である。そのため、ミツバチなどの巣箱を薬剤の影響を受けないように施設から遠ざけてでもスピノサドを使用する。

ビニールハウスなどの施設でいちごを栽培する場合、訪花昆虫を施設外に避難させるという行為は不受精による果実の変形という品質低下のリスクがあるので、本当に必要なときにしか行わない。そのリスクの方がまだ経営的にマシというくらい、ヒラズハナアザミウマの吸汁被害は恐ろしい。つまり、害虫被害を最小限に抑えるために、果実の品質低下というリスクを冒してまで薬剤を使用するのである。スピノサド(スピノシン系)を使用した場合、訪花昆虫を施設外に搬出しておく期間として3~7日間を農薬メーカーは推奨している(アリスタライフサイエンス株式会社「促成イチゴ IPMの手引き」より)。

一方、ネオニコチノイド系のアセタミプリド(農薬名:モスピラン)は、1~3日間とスピノサドよりも影響が少ない。

スピノサド(農薬名:スピノエース)は微生物が産生する物質で「天然物由来」という理由で有機農産物での使用が認められるほど安全な農薬という位置づけになっているのだが、スピノサド使用後の訪花昆虫の働きは著しく悪くなることが多い。化学合成成分なのか天然物なのかそれ自体では訪花昆虫や天敵生物への影響度合いは決まらないのである。

ネオニコチノイドしか適用がない害虫

また、近年被害が増加傾向にあるカキノヒメヨコバイという害虫がいる。このカキノヒメヨコバイは、イチゴの育苗期に発生する害虫で生長点付近を吸汁し新葉や花房などの組織を変形させることで果実の品質を著しく損ねる。

カキノヒメヨコバイの薬剤防除については、そもそも適用のある農薬が少なくイチゴ栽培において駆除できる農薬は、アセタミプリドのモスピラン顆粒水溶剤のみとなっている。それ以外のアブラムシやコナジラミ類などの害虫はネオニコチノイドを使わずとも駆除が可能であるため、特にこだわりがなければ天敵生物のカブリダニ類を多用するいちご栽培では他の系統の薬剤を使用することが多い。

カキノヒメヨコバイの被害株 新しい葉が委縮して変形している

ただ、いちごの育苗期間中は苗を増やすことが目的の栽培管理であるため、花を咲かせて果実を作ることはしない。つまり、イチゴの育苗ではミツバチやマルハナバチを受粉のために使うことはなく、ネオニコチノイド系農薬の影響を考慮する必要がないのである。

いちご栽培における殺虫剤使用の注意点

イチゴの栽培では、ミツバチをはじめとする訪花昆虫の役割は非常に大きい。ミツバチやマルハナバチの適度な訪花活動がイチゴの品質を左右する大きな要因のひとつと言える。影響のある農薬を使用するときは、育苗期間に限定し、収穫用ハウスに定植して訪花昆虫を導入してからは使用を控えることがイチゴの品質において重要である。つまり、施設栽培のように閉鎖的な環境において訪花昆虫は影響を受けやすいため、屋外で使用する以上に殺虫剤の使用には注意を払わなければならないということである。

ネオニコチノイドだけでなく、もちろん他にも多くの殺虫剤がミツバチやマルハナバチに影響がある。たとえば、マラソン乳剤という昭和30年ごろから使われている農薬は、有機リン系の殺虫剤でミツバチ等に対して影響があるため、巣箱や働きバチを7~10日は近づけないように注意喚起がなされている。イチゴ栽培で言えば、開花期に1週間以上も訪花させない期間を作ることは果実の品質を落としてしまいかねないので、マラソン乳剤は使用する農薬の選択肢から外れてしまう。とは言っても、育苗期であれば開花しておらずミツバチ、マルハナバチは導入していないので問題なく使うことは可能だ。

まとめ

2018年の農薬取締法の改正により登録済みの農薬であっても、定期的に最新の科学的根拠に基づいて登録の可否の再評価を行うことで農薬の安全性の向上を図ることとなった。

ネオニコチノイド系殺虫剤のイミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム、アセタミプリド、ジノテフランの5種類は農薬取締法の改正に基づいて登録が適正かどうか再評価の審議にかけられている。記事作成時点では、まだ審査中であり評価が済んでいない。

農薬の再評価について
改正農薬取締法(2018年12月1日施行)において、全ての農薬について、定期的に、最新の科学的知見に基づき安全性等の再評価を行う仕組みを導入しています。
具体的には、以下のことを実施することとしています。

  1. 改正法の施行後に登録された農薬については、今後、概ね15年ごとに再評価
  2. 改正法の施行時での既登録農薬については、2021年度から優先度に応じて順次、再評価
農林水産省 農薬の再評価 より

とは言え、再評価制度以前から安全性が確認できている農薬については、法律や使用基準に従い適正に使用することができる。

いちご栽培では、ネオニコチノイド系殺虫剤を使わなければならないのは育苗期のカキノヒメヨコバイに適用のあるモスピラン顆粒水溶剤を使う場合であり、それ以外のシーンでは代わりの農薬があるため必ずしも使わなければならないということはない。仮に、将来的にネオニコチノイド系殺虫剤が審査を通らなかった場合であっても農作物の供給に影響が出ないよう、業界全体で栽培技術を高めていく必要がある。

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イチゴ栽培技術
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