化学合成農薬を使わずにアブラムシを駆除する方法はいくつかありますが、今回はアブラバチの一種で生物農薬として登録されているコレマンアブラバチを利用した駆除の方法を紹介します。
コレマンアブラバチを使えば、化学合成農薬を使うことなく継続してアブラムシを駆除することができます。また、アブラムシを駆除しながらコレマンアブラバチが増殖していくため、うまく管理して密度を保っていけば常にアブラムシが増えない状態なります。
それでもアブラムシが多発生してしまったら、いったん農薬を使います。化学合成農薬を使うこともありますが、今回は有機JAS対応の扱いやすい農薬を紹介します。
アブラムシの生態
アブラムシは、半翅目に属する昆虫で、カメムシやセミ、タガメなどの仲間で針状の口を持っているのが特徴です。そのため、植物の柔らかい部分を好み、そこに集まって吸汁します。大発生すると正常に生育しなくなることもありますが、ほとんどの場合はその排泄物によるすす汚れやウイルスの媒介となることが問題となります。
厄介なのが、アブラムシは単為生殖が可能でメスだけで増殖することができます。そのため、1匹でも寄生すると気づかないうちに大繁殖している、なんてことも起こりえます。
また、アブラムシの数が増えてくると羽の生えた個体(有翅虫)が現れ、風に乗って新たな作物を目指して移動していくため、被害が拡大してしまいます。
アブラムシの発生原因
アブラムシが発生する原因は、有翅虫が風や人や動物などに付着することによって運ばれてくることになります。
「肥料(窒素)が多すぎるからアブラムシがわいた」という話を聞くことがあります。確かに、窒素過多になれば害虫としては、多くの栄養分を吸汁できるから繁殖する力が増すと考えられます。しかし、アブラムシは作物まで、歩いてやってくることはありません。有翅型の個体が飛来することで最初の1匹目が発生します。アブラムシがいったん侵入してしまうと、窒素が多いか少ないかに関わらず、アブラムシは増殖していきます。
アブラムシが発生する原因は、有翅虫の飛び込みです。つまり、侵入させないことと侵入したものを早めに駆除することがアブラムシの増殖を防ぐ対策になります。
粘着トラップで発生数を確認
そこで大切なのが、定期的なチェックと増やさない環境づくりです。基本的には、アブラムシなどの害虫は「常にいる」ものとして考え、数が増えているかどうかのチェックが必要です。そこでおすすめなのが、ホリバー高性能粘着トラップです。
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作物の近くに設置して、アブラムシなどの微小害虫の発生状況のチェックに使います。アブラムシは黄色のものに集まる習性があるので、イエロータイプのホリバーを使います。もちろん、粘着板に貼り付いたらアブラムシなどは死ぬので、数の抑制になります。
定期的なチェックと合わせて、アブラムシがいても増えていかない状態にしてくれるのがコレマンアブラバチです。
コレマンアブラバチとは
コレマンアブラバチとは、ハチ目コマユバチ科の体長2㎜程度の小さなハチです。肉眼で見ることはできますが、慣れないと蚊のようなただの小さな虫にしか見えません。見た目は、非常に弱々しくて人を刺すようなことはありません。
そのコレマンアブラバチのさなぎを集めて製品化したものが「コレトップ」です。ボトルの中にマミーと呼ばれるアブラムシがコレマンアブラバチに寄生されて、さなぎ化したものが入っています。農水省にも認可されていて、登録上は特定農薬(特定防除資材)として販売されているものです。楽天市場のむし工房というショップが生産、販売しています。
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アブラムシ駆除のしくみ
勘違いしやすいのですが、コレマンアブラバチの成虫はアブラムシを捕食しません。
アブラムシを食べるのはコレマンアブラバチの幼虫です。アブラムシの体内にコレマンアブラバチが卵を産み付け、その中で孵化したコレマンアブラバチの幼虫がアブラムシの内臓を食い尽くすことでアブラムシが死にます。そして、コレマンアブラバチの幼虫はやがてその中で蛹になります。
アブラムシは黄金色に近いマミーと呼ばれる殻だけの状態になります。マミーの状態からしばらくすると、コレマンアブラバチの成虫が殻を破って外に出てきます。そして再びアブラムシを駆除していく、というのがコレマンアブラバチによるアブラムシ防除の仕組みです。
安定的な駆除にはバンカープランツが必要
コレマンアブラバチを利用するうえで最も効果を高めるポイントが、作物以外の植物にアブラムシを寄生させて密度を増やしておく、ということになります。そして、増殖したアブラムシの中へコレマンアブラバチを放飼・寄生させることで新たにマミーを作り、さらにコレマンアブラバチを増殖させていくのです。
すでに作物にアブラムシが大量発生している場合、アブラムシの繁殖スピードの方が早いため、残念ながらコレマンアブラバチを導入しても作物を守ることはできません。あくまで予防的な駆除方法なので、まずは別の方法で作物に付いたアブラムシの密度を減らしてから導入する必要があります。
有機JAS対応の農薬
筆者の経営では、育苗期を中心に化学合成農薬によるアブラムシの防除を行いますが、薬剤の種類によってはアブラムシが死なないケースがあります。農家にとっては非常に由々しき問題なのですが、薬剤抵抗性をもったアブラムシがいるのです。そんなときは、気門封鎖(気門をふさいで窒息させる)タイプの薬剤を使います。この気門封鎖剤は化学合成農薬には分類されず、物理的で単純な作用機序のため薬剤抵抗性をもったアブラムシでも駆除することができます。そのため、使用しても薬剤抵抗性がほとんどつかないとされています。アブラムシの表面にしっかりとかかれば、まず駆除することができます。
使いやすくておすすめなのがサンクリスタル乳剤です。有効成分の脂肪酸グリセリドは植物性油脂でできていて収穫日前日まで使えるうえに使用回数の制限もありません。さらにアブラムシ以外のハダニやうどんこ病にも効果があります。
そしてこのサンクリスタル乳剤は化学合成農薬ではないのでコレマンアブラバチ自体にも影響が少ないです。コレマンアブラバチ剤と同様に有機jas適合品です。
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同一成分を使った家庭菜園向けのサイズの「アーリーセーフ」という別商品もあります。効果は同じです。
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- 作物以外にバンカープランツを用意する
- 作物にアブラムシが発生する前に導入する
この2点がコレマンアブラバチを効果的に使うポイントです。
バンカープランツとなる植物として、一般的なのが育てやすいムギです。プランターに筋蒔きして発芽させます。
ここで問題となるのがバンカープランツであるムギに寄生させるアブラムシです。当然、ムギをまいただけではアブラムシはいません。屋外でたまたまムギに寄生する種類のアブラムシがやってくるのを待つのは現実的ではありません。そこで便利なのがアブラバチ用バンカーというものです。若いムギにトウモロコシアブラムシを寄生させたものです。楽天市場のむし工房というショップで取り扱っています。
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この「むし工房のアブラバチ用バンカー」はマミーにするためのトウモロコシアブラムシを初めから寄生させてあるのでとても手軽です。必要な時にちょうどいい状態で手元に届くので筆者の栽培でもすごく助かっています。
アブラバチ用バンカーは紙製のポットでできているため、そのままだと中の培地が乾きやすいです。培土を入れた別のプランターに植え付けるか、専用の底面給水キットに設置すると生育が安定します。
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バンカー植物給水キットのメリットは、毎日水やりしなくてもよいことです。液肥の入った発泡スチロール製の容器に紙製のポットを挿してやると必要な水と養分を吸い上げていきます。また、容器の断熱性が高いため養液の温度が比較的安定することもバンカー植物の生育にはプラスです。
ムギが小さいうちは2週間くらいは、ほったらかしでも問題ありません。ムギが大きく育ってくると、植物体の吸水量が増えるのでもう少し短い間隔で水と肥料を補充する必要があります。
補充のタイミングを計るのに便利なフロートがついているので、養液の水位が外からでもわかります。水位が下がったら、水の補充口のフタをあけて粉末状の肥料と水を入れてやります。粉→水の順に入れてやれば、とくに混ぜなくても自然と溶けていきます。
アブラバチ用バンカーがうまく育ち、アブラムシとアブラバチがバランスよく増えていけば、写真のように大量にアブラムシが発生していてもコレマンアブラバチが察知してどんどんマミーにしていってくれる状態になることがあります。ここまでくると、化学合成農薬によるアブラムシの防除はまったく必要ありません。
注意することは?
むし工房のアブラバチ用バンカーについているアブラムシは、トウモロコシアブラムシという種類のアブラムシです。その名のとおり、トウモロコシに寄生してしまうのでトウモロコシを育てている人は注意が必要です。
また、冬から春にかけての低温期やアブラムシが吸汁するバンカープランツが元気に育っていないとマミーのもとになるアブラムシが増えることができません。守りたい作物には寄生しない種類のアブラムシを十分に増やしたうえでコレマンアブラバチを導入することが成功の秘けつです。
筆者の場合、あらかじめプランターにムギを育てておいて、そこへトウモロコシアブラムシの付いたアブラバチ用バンカーを導入します。すると、プランターのムギの方へもトウモロコシアブラムシがやってきてどんどん増殖していきます。
アブラムシは、柔らかい葉を好むので、常に新しいムギを供給してあげるとこのシステムがより長持ちします。また、アブラムシはムギの節・根元の陰になっているところに潜むようになります。なので、マミーが折り重なるようにできた部分を切り取って、アブラムシの被害が出ている作物の近くに置いてやるのが駆除までの時間を短縮するコツです。
また、ムギは放っておくと葉がどんどん伸びて下に垂れてだんだんジャマになってしまいます。なので、20㎝くらいの高さで適宜葉を刈り込んでいくと、液肥の補充などの管理がしやすい状態を保つことができます。
この方法で、だいたい3ヶ月くらいは化学合成農薬を使うことなくアブラムシの駆除と予防をすることができるので、今では必ず導入しています。
アブラムシが増えすぎて、いったん数を減らしたいときは、上述のサンクリスタル乳剤を使うのがおすすめです。
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コレマンアブラバチが寄生できない種類のアブラムシがいるなど増殖が収まらない場合は、化学合成農薬を使います。
コレマンアブラバチも昆虫なので、殺虫剤の種類によってはアブラムシといっしょに死んでしまいます。また、バンカー植物に付いているトウモロコシアブラムシも駆除したいアブラムシとともに死にます。コレマンアブラバチとトウモロコシアブラムシを駆除してしまわないように殺虫剤の種類には注意をしたうえで、できるだけバンカー植物に農薬をかからないようにすることが大切です。
アブラムシに適用があって、なおかつコレマンアブラバチに影響のある主な農薬は以下の通りです。
- 有機リン系・・・アクテリック、オルトラン、マラソン
- ピレスロイド系・・・アグロスリン、アディオン、ロディー
- ネオニコチノイド系・・・アドマイヤー
- マクロライド系・・・アファーム
コレマンアブラバチを導入している場所では可能であれば化学合成殺虫剤をさけ、特に上記の殺虫剤は使用を控えます。
コレマンアブラバチによるアブラムシの駆除の成功のポイント
- プランターでムギを育てる
- 2週間くらいしたらアブラバチ用バンカーを入れる
- さらに2週間ほどおいて、トウモロコシアブラムシを増やす
- トウモロコシアブラムシが増えた段階でコレトップを入れる
- 影響のある農薬は極力使わない
以上、今回の記事は、おすすめのアブラムシの駆除方法についてでした。
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