種苗法の改正と品種登録

イチゴ

 

 

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令和3年と4年の2回にわたって、改正種苗法が施行されました。

筆者自身、農業を生業としていて日頃から登録品種の栽培に携わっているので、改正された種苗法の内容を理解しておく必要性を感じ、記事にすることにしました。とくに、登録品種の自家増殖については種苗の権利を持つ人(育成者権者)の許諾が必要となったため、許諾の範囲外のことを行ってしまうと法律違反につながってしまいます。

ということで、今回は農業従事者の立場から種苗法の改正ポイントについてまとめました。

また、農家が登録品種を栽培する上で気を付けなければならない「育成者権者の許諾」の要・不要について公表されているものの一部をいちごを例に一覧にしました。

 

 

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日本の優良な品種の海外流出を防ぐのが改正の主な目的

日本をはじめ、世界中で品種改良が行われています。味や見た目はもちろん、収穫量のや病気に対する抵抗性など、より優良な形質をもつ品種をもとめて日々研究されているのです。公的機関や企業などが多額の資金を投じた結果、生産者をはじめ市場や消費者に評価される新品種が出回るようになります。

そんな日本の優良な品種が無許可で海外に流出したらどうでしょう?日本人からすると経済的損失を受けただけでなく、なんだか自分たちの財産を盗まれたような許せない気持ちになると思います。

今回の種苗法の主な改正ポイント

今回の改正された種苗法は、令和3年4月1日令和4年4月1日施行されています。

いくつかの改正点がありますが、種苗を手に入れて作物を栽培する農業者が特に注意しなければならないのは以下の点になります。

  • 種苗の海外への持ち出し制限
  • 国内での栽培地域の制限
  • 登録品種の増殖は許諾が必要
  • 登録品種の表示の義務化

種苗の海外への持ち出し制限」については、相次ぐ日本の登録品種の海外流出事案を受けて改正にいたったことは容易に想像できます。

このように理由が明確で農業従事者にとっても対応がしやすい改正がある一方で、「登録品種の増殖は許諾が必要」については育成者権者が誰であるかによってさまざまなケースがあるために賛否両論となっています。

育成者権者、ようするに種苗の登録出願をした者が県などの公的な研究機関であれば、生産者にとって不利になるような高額の許諾料を提示することは考えにくいです。実際、都道府県が開発した多くの登録品種の出願は、その地域でしか栽培できないように申請されています。あとで触れますが、それにより栽培可能地域を限定することが特定の品種の産地づくりに役立つからです。また、許諾料についても公的機関のものは、無償としているところが多いです。

その一方で、世界規模の民間の種苗会社であれば、上記のようなことは企業側にはメリットが少ないと考えられます。そのため、「種苗会社による登録品種の独占が起きてしまうのでは?」という心配の声が出ているのです。

以下、注意すべき改正点を具体的にみていきます。すべてに共通することですが、法律の影響を受けるのは登録品種だけでその他の一般品種は対象外です。

種苗の海外への持ち出し制限

日本の種苗が海外へ流出する際に問題となるのは、新品種を開発した本人の意図しないところで種苗の受け渡しが行われるということです。

どういうことかというと、本来であれば優良な品種を開発した本人が認めた人にしかその種苗を受け渡すことはありません。当然ながら、その受け渡しにはお金がかかります。なので、どちらも損することはないのです。

しかし、開発した人の知らないところで種苗の受け渡しが行われる場合、開発者にはまずお金が入ってくることはありません。

これを日本(=開発者)と海外(=種苗の利用者)におきかえてみると、種苗が受け渡された先の海外ではその利用によって大きな経済的な利益が生まれる一方で、日本には一切利益は入ってこないということになります。言ってみれば、種苗を海外に無断で持ち出した時点で新品種の権利を侵害しているのです。このことが、今回の種苗法改正にいたった大きな理由のひとつと考えられます。

日本で作られた優良な品種の権利を守るために、品種登録の出願時に種苗を持ち出すことのできる国を制限できるようにしたということです。

令和4年4月1日から施行となりました。

国内での栽培地域の指定

この変更は、登録品種の国内での栽培地域を制限するためのものです。要するに、新しい品種の栽培地域を限定することで産地づくりを進めていくことを想定した改正です。

確かに、全国どこでも作ることのできる作物よりも「地域限定」のものの方が希少感が出て、つい欲しくなってしまう気持ちもわかる気がします。

これも海外持ち出し制限同様、出願時に栽培地域を指定できるようになりました。

こちらの改正も、令和4年4月1日からの施行となっています。

登録品種の増殖は許諾が必要

参考:農水省HP 改正種苗法について~法改正の概要と留意点~(令和3年4月版) 登録品種の許諾契約のイメージより

繰り返しになりますが、すべての品種の増殖に許諾が必要になるわけではありません。今回の改正で許諾が必要なったのは、登録品種に限ります。それに対して、一般品種は今まで通り種苗の増殖に許諾は不要で今回の規制は受けません。

上記の「水稲の例」のように、登録品種の利用にあたっては育成者権者との間に許諾契約を行わなければなりません。

登録品種とは、農水省の品種登録が完了したものをいいます。品種登録データ検索(農水省)または流通品種データベース(農林水産・食品産業技術振興協会)で登録されているものを確認することができます。どちらもほぼ同様の内容です。一方、一般品種とは、登録品種以外のもののことです。

一般品種とは、過去に品種登録されたことがない品種(品種登録出願されたが、登録されなかった品種を含む)、品種登録されたが登録期間が過ぎ現在は権利のない品種及び在来種です。

引用:公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会 流通品種データベースQ&A

冒頭でも述べましたが、この「登録品種の増殖は許諾が必要」という改正点こそが混乱しやすい部分なので十分に理解しておく必要があります。

こちらの改正も令和4年4月1日施行です。

登録品種の表示の義務化

登録品種である場合、売買のような譲渡などの際に登録品種であること輸出の制限および栽培地域の制限がある旨を表示することが義務化されました。無断で増殖された種苗の流通を防ぐには、種苗生産者が育成者権者から許諾をもらうだけでなく種苗生産者から種苗利用者(購入者)へ流通する間でも登録品種であることを表示していなければなりません。

法改正前までは努力義務でありましたが、令和3年4月1日の改正により義務化されました。

表示する内容と方法は次の通りです。

表示しなければならない内容

①登録品種であることの表示※1~3のどれかひとつ

  1. 登録品種」の文字 
  2. 品種登録」の文字と品種登録番号 
  3.  PVPマーク

【例1】
品種名:ノウリンイエロー(登録品種

【例2】
品種名:ノウリンイエロー 品種登録番号:999999 ※この品種は品種登録されています(令和3年7月14日まで)

【例3】
品種名:ノウリンイエロー

どちらかのマークを記載。

②輸出の制限と国内栽培地域の制限についての表示※省令に規定された文字を使用

  1. 海外持出禁止(農林水産大臣公示有)
  2. 海外持出禁止及び(国内の地域名)内のみ栽培可(公示(農水省HP)参照)

表示方法

販売するために店頭で陳列する場合、種苗の袋や缶などのパッケージに表示します。または、上記の【例1~3】のような表示事項を記載した伝票や札などの証票を添付してもよいです。

さらに、インターネットやカタログなどの媒体を使って販売する場合も店頭販売と同様に表示する義務があります。

海外持出禁止の表示あり
育成者権が満了しているので表示がない

参考:タキイ種苗カタログより

主な登録品種の許諾の状況(いちご)

今回の改正後の種苗法においては、その種苗が登録品種であるかどうかが問題となります。品種登録データ検索(農水省)または流通品種データベース(農林水産・食品産業技術振興協会)で検索することができます。

また、都道府県のHPなどでも許諾の内容などとともに公表されているので確認することができます。いちごを例に以下にまとめました。

出願された品種名育成者権者増殖の可否許諾の手続き有償or無償登録された年月日
おいCベリー農研機構無償2012/12/28
おおきみ農研機構無償2011/5/24
カレンベリー農研機構無償2010/3/18
桃薫農研機構無償2011/10/5
恋みのり農研機構無償2020/11/19
まりひめ和歌山県
※県内限定
不要
※県内限定
無償2010/03/18
埼園い3号
(あまりん)
埼玉県
※県内限定
不要
※県内限定
無償2019/2/14
かんなひめ垣本商事(株)6万円/永年2013/12/05
かおり野三重県有償2010/05/10
あまおとめ愛媛県無償2009/02/24
ゆめのか愛知県県内5万円/年
県外15万円/年
2007/03/22

※「あまおとめ」育成者権者の愛媛県に確認したところ、県外生産者であっても栽培可能・許諾料は不要とのことでした。許諾事業者(ベルグアース株式会社)が県の代理で手続きを行っているので苗の購入と合わせて遵守事項の確認ができます。(2023/6/14確認)

まとめ

筆者の実感としては、種苗法の改正はまだまだ農家への告知が不十分という印象です。そのため、現場では知らないうちに違法栽培となっているケースもあると考えられます。もちろん、農水省のHPを見れば解説はしてありますが、法律に不慣れな農家が果たしてどこまで理解できているのかは疑問が残ります。法律違反は知らなかったでは済まされません。「待ち」ではなく、積極的な「攻め」の改正種苗法の周知が必要であると感じます。

今後、新品種を販売していこうと計画している意欲のある生産者や法人の担当者であれば、さらに詳しく種苗法について詳しく理解しておかなければなりません。

そこで自分で学ぶためにおすすめなのが、逐条解説 種苗法 改訂版 農林水産省 輸出・国際局知的財産課編集です。これは、法律の条文をかみ砕いて解説したもので、法学系の学部でも教科書として使われているコンメンタールです。初学者にもわかりやすく条文ごとに、「本条の趣旨」や「法の目的」、「用語の定義」などが詳しく書かれています。国内だけでなく海外への販路を視野に入れている農業者のコンプライアンスに必須の知識といえるでしょう。