イチゴ栽培では、育苗から収穫期まで1年中ハダニと戦わなければなりません。ハスモンヨトウやアブラムシ、アザミウマだけでなく、他にも病気にも注意を払わないといけない。そうこうしているうちに、あっという間に増殖してしまうハダニ、強敵です。
そんな状況でも、ハダニに勝てるのでしょうか?
いえいえ、ハダニの存在をゼロする必要はありません。収量を下げないレベルまで被害を抑える考え方が重要です。
そんな考えにしてから、筆者は、3年目以降ハダニの発生はありつつも大きく収量を減らすことはなくなりました。
ハダニの生態
参考:「ハダニ防除ハンドブック 失敗しない殺ダニ剤と天敵の使い方 國本佳範:著」
- ナミハダニとカンザワハダニがいる
- 卵は0.1㎜、成虫は0.3~0.6㎜
- 高温、乾燥環境で急速に広がる
- 作物の組織内を口器で破壊し吸汁する
- 卵は2~3日で幼虫に、幼虫・若虫は6~7日で成虫になる
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とにかく小さくて増殖が早いです。
一般的にナミハダニは薬剤抵抗性がつきやすく、カンザワハダニは殺ダニ剤が効きやすいと言われています。
また、葉裏から吸汁するために葉に白っぽい「かすれ」が現れます。この頃にはすでにハダニが増殖し始めています。
ハダニの駆除が困難な理由
- 小さいので発見が遅れる
- 農薬に対する抵抗性がある
- 葉裏にいるので薬液をかけにくい
- 卵が生き残る
小さくて薬液がかかりにくくて、成虫が死んでも卵が生き残ってしまい、1週間後には幼虫が生まれてきます。
小さくて発見しにくい、対策は?
相手は1㎜にも満たない極小サイズのハダニです。侵入した直後に発見するのは、現実的にまず不可能です。
ハダニ侵入後、ある程度時間がたつと葉に白っぽい「かすれ」が現れてきます。さらに、時間が経過してハダニの増殖が進むと葉が萎縮し始めます。それでも何もせずに放置すると、いわゆる「くもの巣」状態になってしまいます。
かすれ(発生初期) → 葉の萎縮(多発生) → くもの巣(激発)

「かすれ」た状態の葉を見つけるのは、とてもむずかしいです。偶然見つけることはあっても、すべて探し出すことはまず無理でしょう。
ハダニの増殖を食い止めて、そこから回復して通常通り収穫まで戻せるレベルは、「葉の萎縮」までと考えています。上記の写真のようになってしまった株は、回復までしばらく時間がかかります。その株の収量は残念ながら落ちてしまいます。
かすれ→葉の萎縮→くもの巣と増殖レベルが進むにつれて、見つけやすさはかんたんになっていきます。この「葉の萎縮」のレベルまでに見つけることがとても重要なのです。
ではこの「葉の萎縮」状態、どうやったら見つけられるのでしょうか?
その前に、少し確認しておきます。厳寒期になると、ハダニの活性が下がり見た目には被害がおさまっているように感じます。ハダニの増殖が大きな問題になるのは暖かくなる3月以降です。つまり、厳寒期に入る前までにハダニの数をきっちり減らしてしまえば、収量の低下につながるようなハダニの大繁殖にはならないということです。(もちろん株の大半がハダニの被害を受けていたら無理ですが)具体的に言えば、11~12月の防除に成功すればよいわけです。
話を戻すと、ハダニよる「葉の萎縮」を見つけるには、11月と12月の薬剤散布時に発見することが絶対に必要です。
早いと11月中に収穫が始まりますが、全棟全株回っても収穫中にはハダニの寄生する葉を見ることはほとんどありません。どうしても目線は果房周辺になってしまいます。
その点、薬剤散布時は株全体を確認できます。そして、次がハダニ発見のポイントになります。
霧状の薬液を「萎縮した葉」にかけると「つやのないゴワゴワ」した葉の表面が目立ちます。正常な葉と比べるとその差は明らかです。
そして、「変だな」と感じたところは葉裏を見てハダニの有無を確認してみてください。慣れてくると薬液がかかったときに葉の萎縮=ハダニの発生場所がわかるようになります。
萎縮した状態の葉であれば、慣れは必要ですが、薬剤散布の際に見つけることは可能です。
1枚目:周辺の株が萎縮した状態、防除から1週間後
2枚目:薬液がかかった直後の萎縮した葉
3枚目:薬液がかかった直後の正常な葉



どうでしょう?
萎縮した葉は、正常な葉にくらべてつやがないのはわかりますでしょうか。
天敵と併用できるおすすめの殺ダニ剤
天敵に影響のあるものを極力さけます。特に、カブリダニ類はハダニの発生に大きくかかわるため、殺菌剤であっても使用前に確認が必要です。
以下、いろいろ気をつかう収穫シーズンのハダニ防除におすすめの農薬です。
IRACコード | 天敵にほぼ影響ない | 訪花昆虫への影響1日 | 天敵への影響1日 |
---|---|---|---|
なし | サフオイル乳剤 |
||
サンクリスタル乳剤 |
|||
フーモン |
|||
10A | ニッソラン水和剤 | ||
12D | テデオン乳剤(販売終了) | ||
20D | マイトコーネフロアブル | ||
25A | スターマイトフロアブル | ||
ダニサラバフロアブル | |||
25B | ダニコングフロアブル |
||
33 | ダニオーテフロアブル |
※カネマイトフロアブルは、カブリダニ類への影響が少ない(影響2日)ものの、薬害が出やすいということもあり表から割愛しました。収穫期後半、もしくは天敵導入前での使用がおすすめです。
基本にそって、IRACコードが同じものが連続しないようにローテーションします。
殺ダニ剤を効果的に散布するには
ハダニがいるエリアがわかっても、ハダニがひそんでいる葉裏まで薬液が届かなければ意味がありません。
そのためには、噴口+ノズルを株の必要に応じて適切なものを選びます。
次の写真の上のものは、環状噴口5頭口に取り回しがしやすい60センチノズルを組み合わせたものです。オールマイティに使え、ほとんどがこれで間に合います。
下のものは、2頭口に30センチノズルを組み合わせたものです。逆手にもつなどして葉裏にかけやすく、軽量でさらに取り回ししやすいので、ハダニのスポット散布に向いています。

イチゴ専用ノズルという選択肢もあります。
噴口が10個ついていて、上から左右から一気に薬液を噴射します。薬液の節約と時短でコスト削減につながります。

ベンチの横に立って使うので、角度調整金具がないとかけにくいです。
ヤマホ イチゴセイバーノズル G1/4セイバーノズルは先端の山型の部分だけなので持ち手になる竿が必要です。長さは、90㎝・120㎝・150㎝・180㎝の4種類から選べます。私が使っているのは、150㎝です。短すぎると薬液が自分にかかり、長すぎると扱いにくいのでこれくらいがちょうどいいです。女性なら120㎝、男性なら150㎝がおすすめで、力に自身ある女性なら150㎝でも大丈夫です。
ヤマホ アルミノーズル S型5号肩など体にかけて竿とノズルを支えます。ベルトがないと手の力だけで竿を持つことになり、負担が大きくうえに不安定になってしまうので必須です。
ヤマホ クランプ付ベルト イチゴセイバーノズル専用セイバーノズルを数年使ってみての感想ですが、芽数が増えてくると株間にはかかりにくくなるデメリットがあります。株が小さいうちは非常に効率よく散布できると感じます。生育にあわせてノズルを選択するといいでしょう。
いちご栽培に必須の天敵 効果的に使うには
天敵生物のメーカーよれば、天敵放飼の推奨時期は10~11月です。
これは、定植後に天敵に長期間影響のある薬剤を使用することを考慮して設定されています。たとえば、定植前後に使われるモベントフロアブルはカブリダニ類に45日以上影響があります。9月の中旬に使われれば、11月以降にならないと天敵は導入できません。また、モベントはマルハナバチにも長期間影響があります。
筆者の栽培では、10月中旬にチリカブリダニを10aあたり8000~10000頭放飼します。ミヤコカブリダニは入れていません。ミヤコカブリダニのボトル製剤やバンカーシートも使用してみましたが、収穫終了までハダニと戦い続けてくれるのはチリカブリダニでした。
適度にハダニが残っているのでチリカブリダニも半年近く生き続けているようです。ハダニ密度が高まる兆しが見えれば、サフオイルやサンクリスタルで局所的に密度を下げます。その後、チリカブリダニを追加放飼していき、最終的にはハダニが多発生することなく収穫を終えることができます。
まとめ
- 葉の萎縮を見極めて、ハダニの発生箇所をつきとめる!
- 天敵に影響の少ない薬剤選びを
- 噴口+ノズルは葉裏にかけやすいものを選ぶ
- 天敵は10月~11月に放飼する
ハダニはゼロにするのではなく、できる限り数を減らしたうえで天敵とうまく共存させるという防除方針がおすすめです。